アルゴリズム建築コース 第7日目/8日目

 

こんにちは^^

前田紀貞建築塾【アルゴリズム建築コース】の講師兼TAの殿村勇貴です。

先週に引き続き、塾生エスキスの様子をお届けします。

 

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アルゴリズム建築講義】13:30〜14:30    

 

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【丹羽案】

先週ピックアップしていたリストから、<シュレディンガーの猫>を弔いの対称として選んできました。有名なのでご存知の方も多いと思いますが、理論物理学者のE.シュレディンガー量子力学批判のために発表した思考実験の主役(笑)のネコです。詳しくは上記リンクにまとめられていますが、ざっくり言うと「量子力学の解釈に従って確率的に放射能が発生する箱の中に入れられた猫は、誰かが蓋を開けて観測するまで「生きている状態と死んでいる状態が重なりあって存在する」という、常識的に考えるとよく分からない矛盾した状態になるというものですね。

このように、物質の状態が「生(1)」と「死(0)」を確率的に含んで、いわば二つの極の間を振動しているような状態を、コンピューターでシミュレートできないか?と丹羽は考えてきました。「シュレディンガーの猫を弔う」というコンセプトの奥には、古典的な「計算可能性」を弔うという深遠なテーマも見え隠れします。とても挑戦的なテーマですが、うまくモデル化・建築化ができたら、今まで見たことがないものが出てきそうですね(*゚∀゚)。

 

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【谷口案】

先週<笑っていいとも!>や<今朝食べた朝食>など、ちょっとおかしな(笑)「弔いの対象」候補リストを持ってきた谷口が選んできたのは、中では意外と穏当な「国立駅舎」。。実際は旧駅舎が既に壊され、新駅舎が建設済みだそうですが、谷口は改めて旧駅舎の要素をアルゴリズムを用いて分解・再構成して、新しく新駅舎のファサードをデザインしてみたい、というイメージを持ってきました。

 

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【田中案】

ジェイン・ジェイコブスの名著『アメリカ大都市の死と生』のテキストデータから単語や文字の関係性を取り出し、それに基づいて近代都市計画的な都市の街区(地)と建物・街路(図)の関係を批評的に再構成してみたい、と考えてきました。磯崎新氏が主導した「海市」のような、ある初期条件と相互関係のルール(アルゴリズム)にもとづいて自己組織化し、生成変化するような都市計画のイメージでしょうか。スケールが大きくてこれも一筋縄ではいかないコンセプトですが、どんなふうに進めていくのか、興味深いですね。

 

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【太田案】

先週挙げてきた弔いの対象の中から太田が選んだのは「金子みすゞ」という詩人。その名前に心当たりがなくても、一時期CMでよく流れていた「こだまでしょうか」の作者と言えばピンとくるかもしれませんね。彼はよく彼女の詩を読んでいたそうで、山口県出身の彼女の詩には、花や木、月など自然に関わることばが多く出てくるのだそうです。

手はじめの試行として、太田は彼女の詩を分析して3タイプに分類したり、詩を音(ひらがな)のレベルまで分解してそれを建物のレベル差に変換することで面白い空間が出てくるのでは?という検討をしてきました。

 

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【松島案】

松島はジョン・レノンを弔う対称として選び、さらにジョンの夫人でアーティストでもあるオノ・ヨーコと絡めていきたい、というコンセプトを持ってきました。ジョンの「Oh Yoko」という曲と、ヨーコがMOMAで行った叫びのインスタレーションの音声をProcessingで解析し、2つを空間的に重ね合せて表現することで、ジョンの死によって中断された二人の再結合を企てたい、という提案です。

 


John Lennon Oh Yoko! - YouTube

 


VOICE PIECE FOR SOPRANO & WISH TREE at MoMA, Summer 2010 by yoko ono - YouTube

 

まだまだコンセプトの段階なので、それぞれどのようになるのか、当の本人たち以外にはイメージしにくいかも知れませんが、それぞれ全く違う方向になりそうで楽しみですね。各人が自分のコンセプトをどうやってアルゴリズミックに処理し、それを空間作品に消化していくのか、乞うご期待!です。

 

【プログラミング演習】14:30〜16:00

 

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プログラミング演習の7・8回目は、<forループ><配列(array)>に続き、Processing習得の第三の難関「オブジェクト指向プログラミング」です。この山をきちんと越えられれば、プログラミングの世界の視界が一気に開けてくるところですが、三つの難関の中でも一番理解にてまどるところでもあります。当塾では、有名なシミュレーションモデルの一つである「セル・オートマトン」のシンプルな例を用いて、できるだけ具体的なイメージを与えながら丁寧に解説していきます。

 

またまたざっくり言うと<オブジェクト指向プログラミング>とは、固有の「属性(プロパティ)」と「振る舞い(メソッド)」を備えたたくさんの「オブジェクト」の集合としてプログラムを構築する手法のことを言います。例えばTVゲームのスー●ーマリオで、プレーヤーが操作するヒゲの配管工や、敵キャラクターである歩くキノコやトゲトゲのカメなどは、それぞれに固有の動きを持っていて、そういう「オブジェクト」が集まってあのゲームが成り立っていますが、そんなイメージです。ここでは詳細は省きますが、この方法論を使うとプログラムの効率や編集性が格段に上がるため、プログラミングの世界ではもはや基本になっているといってもよい考え方です。

 

例えば、この考え方を利用して、有名な非線形秩序生成シミュレーションの一つである「セルオートマトン(CA)」をコンパクトなコードでプログラミングすることができます。セルオートマトンとは、ごく単純な「生/死」を決めるルールを与えたコマ(セル)をグリッド状に敷きつめて時間を経過させるシミュレーションで、単純な割には生命現象や結晶の成長、乱流といった複雑な自然現象に通底する豊かな結果を与えてくれる計算モデルです。

 

少し具体的なことをかくと、基本的なセルオートマトンの場合は全てのセルが同じルールに従って「生(黒)/死(白)」を決めていくので、このセルを「オブジェクト」としてプログラミングしたあと、それをグリッド状に敷き詰める、というコードを書きます。アウトプットは、例えば次の動画のようになります。

 

 


cellauto - YouTube

 

実はこのコード、Processingのオープンソース性があるため、ネットで簡単に手に入れることができます。

そのコードは以下のようになります。

 

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ただ、これを最初からそのままやろうとすると大変ですし、理解しないまま何となくエディタに書き写すだけではプログラミングの作法が体得できません。当塾では、今まで習ってきた単純なプログラムを少しずつ「セル・オートマトン」のプログラミングに書き換えて、ステップバイステップで近づけていくという風に授業をしています。

そうすることで、最初は、あまりの難しさに不安そうだった塾生たちも、順を追ってプログラミングをすることでしっかりと理解できたようでした。


cellauto_vv - YouTube

 

ちなみに、セルオートマトンはセルの「生/死」のルールを少し書き換えるだけで、アウトプットが劇的に変わります。ちょっとした変化(例えば遺伝子のほんの一部)が変わるだけで出力(表現型)が劇的に変わる、というのもどこか生命現象に通じるところがありますよね。たとえば上の動画は、セル変化のルールを「ヴィシニュアック・ヴォート」と呼ばれるものに書き換えたものです。メインコード自体は全く同じで、ルールだけが少し違うのですが、結果的に出てくるものは随分違いますよね。プログラムの中で本の数行を書き換えるだけで、こういう試行がどんどんできること、必ずしも結果を予測できなくても、どんどんトライアル&エラーができることが、アルゴリズムを用いたコンピューター・シミュレーションの面白さ、有用性のひとつである、ということの分かりやすい例でもあります。

 

塾生たちは、初めて自分のモニター上で動くセルオートマトンに興奮気味(?)でした。コードは少し複雑になってきましたが、コンピューターの中にある“自然”の手触りを感じ取っていたように思います。これらのプログラミングをどのように設計に活かしてくれるのか楽しみです!

 

 

少しでも、このブログに書かれている内容に興味を持ったなら、是非、前田紀貞建築塾アルゴリズム建築コースで受講されてみてはいかがでしょう?

コース詳細は下記URLよりどうぞ!

 

前田紀貞建築塾【アルゴリズム建築コース】

http://www5a.biglobe.ne.jp/~norisada/SCHOOL/course/index.html - 4    

 

いかがだったでしょうか?次回は、引き続き「弔いの場」のエスキスをレポートしていきます!お楽しみに^^

 

前田紀貞アトリエ 殿村勇貴