アルゴリズム建築コース 第9日目/第10日目

こんにちは^^

前田紀貞建築塾【アルゴリズム建築コース】の講師兼TAの殿村勇貴です。

 

先週までで、コースの作品制作課題<弔いの場>について、塾生それぞれの「弔いの対象」がほぼ固まってきました。次はそれをどのようにProcessingと絡めてプログラミングを組み、そのアウトプットをどのように建築化/空間化して「弔い」というコンセプトへと接続していくのか、というスタディの第二段階へと進みます。

 

それでは早速、授業の様子をお届けします。

 

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アルゴリズム建築講義】13:30〜14:30

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【丹羽案】

シュレディンガーの猫」を弔いの対象として選んだ丹羽、この日はその対象と絡めてプロジェクトの想定敷地を決めてきました。

オーストリアのウィーン、「猫」の生みの親、E.シュレディンガーの墓(下の写真)がある場所です。

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また、アルゴリズミックな処理の方向性として、「生きていると同時に死んでいる」という対立する状態が重なりあうシュレディンガーの猫の不可思議なあり様を、「マッス(mass:量塊)とヴォイド(void:空隙)」や「内部と外部」のように対立する空間概念に翻訳するのはどうだろう、と考えてきました。内部と外部の中間=縁側のような場所に…と連想が進んだところで塾長からすかさずコメントが。

 

 

「「内」と「外」とその中間領域の「縁側」という、いかにもステレオタイプな建築的解釈に即座に当てはめるのではなくて、それらすべてを生み出す根幹、内/外(+縁側)が互いからくっきりと区別することもできず、さりとて交じり合って「縁側」のような別の実体になるのでもない状態を生み出す根源にある「はたらき」を問うことが大事だ」「プログラミングで処理しきれない状態が露呈するようなものを作ったらいいのではないか。例えば、虚数のようなもの…?」など。残念ながら現状ではProcessingで虚数複素数を扱うことはできないのですが、ここで大切なことは、建築とは既存の概念枠の中で明快な科学的解答を出すのではなくて、新たな世界観を発見的に提示することである、ということ。ちょっと難しい話ですが(^_^;)、丹羽自身はこのままではダメだ、ということを何となく肌で感じられたようです。

 

【谷口案】

前回までは「国立駅」を<弔いの対象>として検討を進めてきた谷口ですが、この日、それまで考えてきた「旧国立駅」をやめ、代わりに「テクトニック(Techtonik)」を弔いの対称にすると決断してきました。テクトニックとは、少し前にヨーロッパを中心に一世を風靡したダンススタイルのひとつだそうですが、その短命なブームが去った後は潮が引くように人々の記憶から消えつつあるのだ、とのこと。自身がクラブミュージック&ダンスに強い思い入れのある谷口は、今や過去のものとなりつつあるこのダンススタイルを弔うことを選択したわけです。最終的にはTechtonikダンサー独特の動きに反応して変化するようなダンスホールを作品化したい、と言ってきました。この方向転換に対し、塾長からは「

ダンスや踊りを題材に取るのは面白い。踊りを支えているのはダンサーの意識ではなく無意識化された身体的な「癖」や「暗黙知」のようなものだから、それをデータとして抽出できれば「意識(意図)の建築」から離れて「無意識の動き」を扱うきっかけになりそうだな」とのコメントが。


YELLE A CAUSE DES GARCON VERSION TEKTONIK - YouTube

 

【田中案】

J.ジェイコブスの「アメリカ大都市の死と生」の文章から都市を作ろうとしている田中は、さっそく『アメリカ大都市の死と生」の英文テキストの一部をデータ化してprocessingに取り込み、「ツリーマップ」と呼ばれる方法を使って単語間の関係性をビジュアル化するコードを試験的に書いてきました。元になるデータをどう扱っていいか(どう空間化していくか)はまだはっきりしていないようですが、そういう時こそ逆に「とにかく手を動かして何か(コードを)書いてみる」のも大事です。そうやって何かをアウトプットすれば先生や講師から塾生自身には見えていない部分についてのコメントを引き出せるし、塾生自身もとりあえず出てきた「ブツ」を手がかりに次の一手を見つけられるんです。

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講師辻も「とにかく手を動かしてとりあえずアルゴリズムで形にしてみるという姿勢は、最初のとっかかりとしてはとても良い」とコメント。ただ一方で「単純に単語同士の関係性を抽出しただけでは、著者であるジェイコブスの個性よりも“英語”という言語の文法のパターンが前面に出てしまうのではないか?」とも。

 

データをアルゴリズミックに処理していると次々面白いビジュアルが生成されるのですが、この塾の課題ではそのような<単に面白い形・新規なビジある>をつくるのではなく、そこにその作品が生まれるべき「意味」「筋道」を考えなければいけないのです。濃密なストーリー(筋道)を生みやすい「弔いの場」というテーマの設定もそこからきています。田中はこれから更に踏み込んで、<ジェイコブスのテキスト>というデータから何らかの形へと至る筋道を探っていくことになりますね。

 

 

【太田案】

金子みすゞという詩人の詩から建築空間を立ち上げようとしている太田は「子供のような澄んだ視線から謳った詩や童謡をたくさん書いた詩人を弔うものなので、最終的なアウトプットは子供のための空間にし

たい」とイメージしたまではよかったのですが、そこからあまり先に進めなかったようです。

 

これに対して、塾長や講師からは「頭の中だけで悩まないで、行き詰まった時こそとにかく手を動かせ」とアドバイス。二人とも建築の実務で同じように行き詰まることは日常茶飯事ですが、そういう時こそとにかくやたらにスケッチをしたり、プログラムを書いてみたりと、とにかく「手を動かす」中からふと答えが浮かんでくることが多いそうです。「なぜ?」と聞かれても理論的には答えられないようですが(笑)、建築の大先輩である二人の言葉に、大田も目を開かれたようでした。

 

 

同じ“文字”というデータを「かたち(空間)」に読み替えていくという点では田中と同じ「入口」にいる大田ですが、互いに全く違った「出口」を見出してくれることを期待しましょう(^_^)。

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【松島案】

ジョン・レノンを「弔い」の対象に決めた松島は、作品のストーリーにフィットする敷地を決めてきました。彼が選んだのは、ジョンが狂信的なファンに撃たれて亡くなったニューヨークのダゴタ・ハウス前、セントラルパークの一角。夫人であるオノ・ヨーコが事件後もそこに住み続けたことから考えても、この場所は二人にとってとても思い入れのある場所であり、「弔いの場」を設ける場としてこれ以上ふさわしい場所はないと考えたそうです。

一方で、松島も大田同様に具体的な作品のエスキスは持ってこられず、講師の辻から「まずは、素材として使おうとしているジョンの楽曲「oh yoko」と、ヨーコのパフォーマンスの絶叫をProcessingにデータとして読み込むコードを書くことから始めるように。とにかく手を動かすこと!」との指導を受けました。

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【プログラミング演習】14:30〜16:00

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先週でProcessingの基礎演習は終了し、この日からRhinoceros+Grasshopperによるプログラミング演習がはじまりました。Grasshopperは3D CADとして年々認知度を高めるRhinocerosのプラグインの一つで、グラフィカル・アルゴリズム・エディタ(GAE)で、3D CADによるモデリングプロセスを可視化・拡張するソフトです。

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GAEとは、Processingのようにエディタにテキスト(文字)を打ち込んでコードを書く代わりに、コードの流れや部品ごとの入力/出力関係をより直感的に理解できるようにした「コンポーネント」というパーツ(上のスクリーンショットにたくさん並んでいる電池のようなアイコン)を画面上に並べて行くことでアルゴリズムを記述していくエディタであり、プログラミング(コーディング)に精通していないデザイナーでも使いやすいように工夫されています。

 

ただ、あまりに便利な分、プログラミングについて基本的な理解がないままGrasshopperのようなGAEを使ってしまうと、いつまでたっても通り一遍、マニュアルどおりの使い方になってしまいがちなのです。また、基本的には予め用意されたコンポーネントに機能がパッケージされているので、Processingのような従来型の(文字による)コーディングと比べると自由度や可変性も劣ります(あくまで一般論ですが)。ですので当塾では、まずProcessing演習で「プログラミング」や「アルゴリズム」一般についての基本的な知識や感覚を身につけてからGrasshopperを学ぶことで、それぞれの長所を活かして適材適所に使い分け、組み合わせることを教えているんです。

  

Rhinoceros+Grasshopper演習の第一回目となるこの日は、ソフトの具体的な使い方に入る前にわたくし不肖・殿村がこれらのソフトが用いられた最近の作品例を簡単なスライドショーで説明しました。例えば、最近何かと話題のザハ・ハディド氏による国立競技場コンペ案や、

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アントニオ・ガウディによるサグラダ・ファミリアの施工検討にもGrasshopperによる検討がなされています。

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今まで、高性能3D CADによるグニャグニャのデザインはおしなべて施工困難だと言われてきましたが、近年は設計から施工、さらには竣工後の管理までを一元管理するBIM(Building Information Management)システムの普及によって施工ラインに繋げるデジタル・ファブリケーション技術の進歩により、年々施工が容易になりつつあります。このような流れは、今後さらに加速することでしょう。

 

塾生は、このアルゴリズム建築に注目が集まる建築界での大きな流れの中で、今一からコンピュータープログラミングを学んでいる自分を見つめ直し、この先必ず来るアルゴリズム建築の未来を想像していたように思います。

 

今後さらに注目されることになるアルゴリズム建築に興味がある方は、是非、前田紀貞建築塾アルゴリズム建築コースをチェックしてみてください!

前田紀貞建築塾【アルゴリズム建築コース】

http://www5a.biglobe.ne.jp/~norisada/SCHOOL/course/index.html - 4

 

いかがだったでしょうか?次回は、引き続き「弔いの場」のエスキスをレポートしていきます!お楽しみに^^

 

 

前田紀貞アトリエ 殿村勇貴